“空気みたいになりたい”

    『恋愛幸福論で10のお題 Vol.7』 より
 

二月の末の数日ほどは、唐突なほどの気温の高さが続いていたからか、
その直前まで暴れてた、雪まで降った厳寒との落差も大きくてのこと、
このまま春になりゃあいいのにと思ったっけ。
ところがそれが一転し、
二月最後の日曜は冷たい雨に見舞われたし。
それが明けた昨日今日はというと、
陽射しこそ目映いほどに明るいけれど、
風は冷たいし、陽だまりにいてもなかなか体が温まらないし。

 「不思議ですよねぇ。こんなに明るくて暖かそうなのに。」

裏に起毛のボア生地がついたジャケットを羽織っているので、
さすがに“震え上がるほど”という想いをしちゃあいないけれど。
相変わらずに過保護な気遣いを降らせて下さる幼なじみのお姉さんが、
冬に入って早々、
この冬はこれを使いなさいねと渡してくれたミトンや手套も、
曜日別の日替わりで使えそうなほどの数もあるので、
寒さ自体に怯むということはないのだけれど。
それでも、

 「そういや 中学までは、
  冬場ってずっとずっと家に居づっぱりだったなぁって。」

どうせ寒いのだし、
そんな中を出掛けたところで、
一緒に何かを楽しめるお友達というのもいなかったしで。
なので ついついゲームばかりしていたなぁと、
なので、

 「例年並みとか暖冬とか、あんまり実感なかったなぁって。」

登下校中は…あのその、カバン持ちとかやらされて。
全部を持ち主の教室まで届ける時間も考えたら、
思いっきり走ってかないと間に合わなかったんで。
寒いかどうかなんてしみじみ実感する暇も無かったし。

 「あ・でも、
  それって今のボクに、十分役に立ってますものね。」

さすがに“感謝”まではしないけど、
そっか、意味ないことじゃあなかったんだ、と。
えへへvvと頬染め、含羞みの笑みを口許へと浮かべる小柄な少年へ。

 「…………。/////////」

こちらはこちらで、
寡黙さを崩せぬままながら、それでもあのね?
傍らに見下ろしたその笑顔への、
まるで化学反応ででもあるかのように、
うぬぅと二の句を封じられ、
ただただその目を見張る誰か様であったりし。

 「? 進さん?」
 「……いや、なんでもない。/////」

時折吹き付ける北風が、
ここ数日の暖かさに誘われ、早めにゆるんだ白梅のつぼみをさいなむ、
そんなほど料峭の厳しい、早朝のジョギングコースにて。
頬やら耳の縁やらを真っ赤にし、
たかたかと駆ける二人の青年の姿があって。
どちらかと言えば小柄な少年の方が、しきりと話しかけており。
その連れは、咳の出来損ないのような声での応じを返すのみ。

 「……。」

セナの持ち出す他愛のない話題が、理解不能なんじゃあない。
むしろ、とても判りやすいというか、
以前の自分ならば飲み込めなかっただろう、
あまりに他愛のない話ばかりなのへ。
あまりに寒ければ霜柱も立とうし、
春が間近になれば蕾だって膨らむ。
そんなの当然のことじゃあないかと、何でいちいち喜ぶのだろうと。
不遜な態度で馬鹿にするんじゃあなくて、
彼の側からもまた純粋な“何故?”が沸き起こったほどのそれらだったのが。
今じゃあ、
それらがいかにセナへと驚きや嬉しいを運ぶのかも、
しっかと理解しており。
セナのほんわりしたリアクションの1つ1つが、何とも愛らしいものだから、
気の利いた相槌なんて打てるはずがない自分へこそ、
不甲斐ないとか情けないとか、
そういった歯痒さ、これでも彼なりに感じていたりして。
( そこの人、えーーー?とか言わない。)

 「進さん?」
 「いや…。」

相変わらずに くるくると表情を変えちゃあ、
それがどんな話題であれ、
うふふというまろやかな笑顔で帰着出来るところへ、
自分がどれほど暖められていることか、と。
せめてそれっくらいはセナへと伝えたいのに。
そのようなやわらかい事象へのボキャブラリーが、
皆無に等しい身であるがゆえ。
これまでには例のない、そんな方向への煩悶を抱えてしまい、
困った困ったとその仏頂面に深みの増してる、
王城の“翔るお不動様”だったりするのだが。

 “どうしたんだろ、進さんたら…。”

ボクが相手じゃあ、話しても解決には至れないようなことなんだろか。
今のチームのこととか、トレーニングのこととかなのかなぁ…と。
さっきちらっと見せてくれた、そうだねそうだなという微笑い顔、
最近は たっくさん見せてくれるようになったのになと。
そんな風に、既にしっかと読み取られていることにも、
気づきもしないようでは……まだまだ蓄積は足りないようです、仁王様。
とりあえず、

 「………あ。//////」
 「うむ。」

ジョギングコースへどこからか届いた沈丁花の匂いに、
思わず“はうぅvv”と頬染めたセナくんだってこと、
ちゃんと判るほどには絆されてる、今年の春みたいでございますvv






  〜Fine〜 10.03.03.


  *何のこっちゃなお話が続いてすいません。
   ひな祭りではありますが、
   男所帯な彼らには何のお話を書けばいいのやら。
   (去年はたまきさん絡みの話になったんだっけ?)
   とりあえず、春が来たぞという兆しを、
   こまやかに拾うセナくんの愛らしさへと、
   そちらさんも心なごます進さんだったりしたら、
   凄んごい進化じゃあないですかとvv


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